大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)9170号 判決

原告 株式会社 アサヒ工房

右代表者代表取締役 三浦美陽児

右訴訟代理人弁護士 菅原光夫

同 飯野信昭

被告 株式会社不動産ローンセンター

右代表者代表取締役 荻窪開南

右訴訟代理人弁護士 小林茂美

主文

一  被告は、原告に対し、金三六一万四二八六円及びこれに対する昭和六〇年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、九九三万三〇一四円及びこれに対する昭和六〇年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五九年九月一四日、被告から左記の約定で、四五〇〇万円の金員を借受けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。

(一) 利率 年四〇・一五パーセント

(二) 遅延損害金 年七三パーセント

(三) 支払方法 昭和五九年一〇月から昭和六九年九月まで、毎月五日限り、元利金として金一五四万円ずつ分割払

2  原告は被告に対して、本件消費貸借に関し、次のとおり支払った。

(一) 昭和五九年一〇月五日 登記費用の立替金として二七万五二〇〇円、元利金として一九七万四八〇〇円の合計二二五万円

(二) 昭和五九年一一月五日 元利金として二二五万円

(三) 昭和五九年一二月五日・昭和六〇年一月五日・同二月五日・同三月五日・同四月五日 元利金として各一五四万円

(四) 昭和六〇年四月二七日 元利金として四六四〇万四八三五円

3  前項の内元利金としてなされた支払は、利息制限法一条一項所定の制限利率年一五パーセントを超えるものであるから、その制限超過分を元本に充当すると、別表(一)のとおりとなり、金九九三万三〇一四円が過払となっている。

よって、原告は、被告に対し、不当利得に基づき、右過払金九九三万三〇一四円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年八月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の内原告が被告に対し、原告主張の金額の支払をなしたことは認める。その余は争う。

三  抗弁

1  被告は、原告と本件消費貸借契約をなすにあたり、被告は訴外三浦尚子の所有名義である横須賀市吉井字上吉井二一一番地外二筆の山林につきその所有権の移転を受けたうえ、訴外東相総合リース株式会社から金四五〇〇万円を借受け、同金員を原告に貸し付ける合意をなし、原告及び三浦尚子は被告が右山林につき東相総合リース株式会社に対し抵当権を設定することを承諾した。右所有権移転及び抵当権設定登記手続のため、登記費用として金二七万五二〇〇円、登記簿閲覧費用として金二二二〇円及び内容証明郵便費用として金一〇一〇円を要し、被告はこれらの費用を原告に代わって立替払した。

2  本件消費貸借契約において、原告は被告に対し、事務取扱手数料一三五万円及び調査料五万円を支払う旨約した。

3  被告は原告から、右1、2の立替金等合計金一六七万八四三〇円の支払として、内金八五万〇五〇〇円を請求原因2(一)の支払時に、残金八二万七九三〇円を同2(二)の支払時にそれぞれ利息の弁済とともに支払を受け、右立替金等に充当したものである。

4  また、本件消費貸借契約において、原告が期限前に貸金の全部を一括弁済する場合には、残元本の三パーセントにあたる金員を、違約金として支払う約定があり、被告は請求原因2(四)の支払時に、原告から右約定に基づく違約金として金八八万〇〇九一円の支払を受け、右支払金額の中には右違約金の支払が含まれている。

5  (みなし弁済)

(一) 被告は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)による登録を受けた貸金業者であるところ、本件消費貸借契約は被告が業として行ったものである。被告は右契約締結時、原告に対し、同法一七条一項各号所定の事項を記載した契約書を交付した。

(二) 原告は、被告に対し、請求原因2(一)ないし(四)の内、前記立替金等以外の金員を本件消費貸借契約に基づく利息及び損害金として任意に支払ったが、被告はその支払を受けた都度直ちに貸金業法一八条一項各号所定の事項を記載した受取証書を、原告に対して交付した。

よって、仮に前記抗弁2の金員が利息となるとしても、これを含め利息制限法に定める制限額を超える部分の支払は、貸金業法四三条一項により、有効な債務の弁済とみなされ、被告は右超過部分を返還する義務はない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、被告が登記費用として金二七万五二〇〇円を立替払したことは認める。その余は否認する。

2  抗弁2の約定の存在は認めるが、これは利息制限法三条本文により利息とみなされるものである。

3  抗弁3の内、金二七万五二〇〇円を1の登記費用立替金の弁済として支払ったことは認める。その余は否認する。

4  抗弁4のうち、被告主張の約定があったことは認めるが、その余は否認する。

5  抗弁5(一)は認める。同(二)は否認する。

五  再抗弁

原告は、昭和六〇年三月一五日、本件貸金を期限前に一括弁済をなす旨通知し、被告は同年四月一九日これを承諾したから、抗弁4の約定に基づく違約金は免除されたものである。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1及び2のうち原告が被告に対し、本件消費貸借に関して同(一)ないし(四)のとおりの支払をなしたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁について判断する。

1  《証拠省略》によれば、原告は被告と本件消費貸借契約をなすに際し、訴外三浦尚子の所有名義となっている横須賀市吉井字上吉井二一一番地外二筆の山林の所有権を右貸金債務を担保するため譲渡したこと、被告は同日訴外東相総合リース株式会社から金四五〇〇万円を借受けて右山林につき抵当権を設定したこと、右所有権移転及び抵当権設定登記手続のためその費用として合計金二七万八四三〇円を要したところ、被告は昭和五九年九月一四日内金三二三〇円を、同月一八日内金二七万五二〇〇円(この事実は、当事者間に争いがない。)を原告に代わって立替払したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  抗弁2の約定がなされたことは、当事者間に争いがないところ、右約定の事務取扱手数料及び調査料は、本件消費貸借に関し被告が受ける元本以外の金銭であるから、その名義にかかわらず利息とみなすべきものである(利息制限法三条本文)。

3  《証拠省略》によれば、被告は原告から請求原因2(一)、(二)の支払を受けた際、前記抗弁1、2の合計金一六七万八四三〇円につき、右2(一)の支払時に内金八五万〇五〇〇円、同(二)の支払時に内金八二万七九三〇円を立替金の支払として充当したことが認められる。

しかしながら、抗弁2の合計金一四〇万円は前認定のとおり利息とみなされるべきであるから、利息制限法所定の制限を超える部分は、右充当は効力を生ぜず、元本の支払に充てたものとみるべきである。

4  抗弁4の約定がなされたことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は昭和六〇年四月二七日、請求原因2(四)のとおり被告に対して本件貸金を一括弁済し、被告はその内金八八万〇〇九一円を右違約金として充当したことが認められる。原告は、期限前に一括弁済するにつき被告はこれを認めたから右違約金の支払は免除された旨主張し、《証拠省略》によれば、原告は昭和六〇年三月一五日、被告に対し、本件貸金の元利金を同年四月二七日に弁済したいので同日までの元利金を通知してほしい旨依頼したところ、被告は同年四月一九日、同月一五日現在の残高は金四四四四万九〇七七円であると通知したことが認められるが、右通知をもって約定の違約金(被告の有する期限の利益)を放棄したとまでいうことはできず、他に被告が違約金支払義務を免除したことを認めるに足りる証拠はない。

5  以上の事実によると、原告が被告に対し支払った請求原因2(一)の内金二七万八四三〇円は登記費用の立替金に、また同2(四)の内金八八万〇〇九一円は約定による違約金にそれぞれ充当されたものであるから、右金員について不当利得を理由に返還を求める原告の請求は失当といわなければならない。

三  次に、抗弁5(一)は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被告は原告から請求原因2(一)ないし(四)の支払を受けた都度直ちに計算書あるいは領収証と題する受取証書を原告に交付したことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右受取証書の記載に照らすと、右金員は前記立替金及び違約金を除き本件消費貸借契約の元利金として任意に支払われたものと推認される。

右金員の内、年一割五分の利率を超える利息部分の支払は、利息制限法に定める制限額を超えるものであるところ、《証拠省略》によれば、請求原因2(一)支払時に交付された受取証書には支払金二二五万円の内金八五万〇五〇〇円を立替金に、内金一〇三万九五〇〇円を元本に充当した旨記載され、請求原因2(二)の支払時に交付された受取証書には支払金二二五万円の内金八二万七九三〇円を立替金に、内金一四二万二〇七〇円を利息に充当した旨記載されていること、また《証拠省略》によれば、請求原因2(三)、(四)の支払時に交付された受取証書には、各支払金の一部を利息、残金を元本に充当したことほか貸金業法一八条一項各号所定の事項の記載がなされていることが認められ、右認定に反する証拠はない。右の事実によれば、請求原因2(三)、(四)にかかる利息制限法を超過する部分の支払は、貸金業法四三条一項により有効な弁済とみなされるが、請求原因(一)、(二)にかかる超過部分の支払は、前記登記費用の立替金以外は利息とみなされるのであるから、これを立替金の支払に充当する旨の記載をした受取証書の交付をしても貸金業法四三条一項の適用をみないものというべきである。そして、この場合、みなし弁済が成立する支払については約定利率によるが、みなし弁済が成立しない支払については利息制限法の制限利率により利息を計算し、後者の制限を超える部分を元本に充当した結果得られる残元本額が、前者の利息計算の基礎とすべき残元本になるものと解するのが相当である。以上により計算すると、別表(二)のとおりであって、金三六一万四二八六円の過払になることが明らかである。

四  よって、原告の本訴請求は、右不当利得金三六一万四二八六円および訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年八月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長野益三)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例